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2022年6月、改正特定商取引法が施行されてから1か月が経過しました。
今回の改正は、EC事業者やネット通販に関わる企業にとって大きなインパクトを与えています。
では具体的にどのような規制が加わり、どんなルールが設けられたのでしょうか。ここで改めて整理してみましょう。
特定商取引法とは?
特定商取引法(特商法)は、事業者による不適切な勧誘を防ぎ、消費者の利益を守ることを目的とした法律です。
消費者トラブルが発生しやすい取引を対象に、広告の表示ルールやクーリング・オフ制度などを定めています。
法律の対象となる取引形態は次の7つです。
- 訪問販売
- 通信販売
- 電話勧誘販売
- 連鎖販売取引(マルチ商法など)
- 特定継続的役務提供(エステサロン・英会話教室など)
- 業務提供誘引販売取引(内職商法など)
- 訪問購入
過去にも何度か改正されてきましたが、今回の大きなポイントは通信販売の「詐欺的な定期購入商法」への対策です。
詐欺的な定期購入商法とは?
ここ数年、「サブスクリプション(サブスク)」という形態が若い世代を中心に浸透しました。
定額料金を支払えば、一定期間サービスを利用できる仕組みで、動画配信や音楽配信、美容室通い放題、毎月届くコスメなど多様化しています。市場規模は2024年度に1.2兆円に達すると予測されています。(参考:矢野経済研究所「サブスクリプションサービス市場に関する調査を実施(2022年)」)
これと似ているのが「定期購入」です。
継続して商品を購入する点は共通ですが、サブスクが「利用権」であるのに対し、定期購入は化粧品や健康食品といった「商品の引き取り」である点が異なります。
便利で人気がある一方、トラブルも増加しています。主なものは次の2つです。
1つ目は、「初回無料」「お試し」と宣伝しておきながら、実際には定期購入が条件になっていたなどの契約期間や料金に関するトラブル。
2つ目は、「いつでも解約可能」と表示していながら、実際には解約できない、あるいは厳しい条件が課されていたという解約に関するトラブル。
こうした問題が社会的に問題視され、今回の法改正につながりました。

改正で追加された「4つの新ルール」
改正特商法では、新しく次の4つのルールが定められています。
(1) 最終確認画面での表示の義務付け
(2) 消費者を誤認させる表示の禁止
(3) 契約の撤回・解除を妨げる不実の告知の禁止
(4) 「取消権」の新設
それぞれ具体的にみていきましょう。
(1) 最終確認画面での表示の義務付け
改正特定商取引法の施行に伴い、令和4年6月1日からは、ECサイトの「最終確認画面※1」に以下の6項目をわかりやすく表示することが義務化されました。
※1…最終確認画面とは、インターネット通販において、消費者がその画面内に設けられている申し込みボタン等をクリックすることにより契約の申し込みが完了する画面のこと。SNSやチャット型のECサイトも含まれる。
以下6項目の記載がない、あるいは事実でない記載がある場合は法律違反となる可能性もあるため、EC事業者やECに携わる企業は十分に注意してください。
■1、分量
商品やサービスに応じて、数量、回数、期間などを表示。
・定期購入契約…各回の分量+総分量(引き渡しの回数)を表示
・サブスクリプション…サービスの提供期間+期間内に利用可能な回数があればその内容を表示
定期購入及びサブスクリプションが無期限あるいは自動更新の場合、その旨を表示する必要があります。
また、無期限の場合には「1年間」など一定期間を区切った分量を目安として表示することが好ましいです。
■2、販売価格・対価
個々の商品の販売価格に加えて、支払い総額も表示。
販売価格には送料を含むことも忘れずに。
・定期購入契約…各回の商品の代金+代金の総額を表示。
初回と2回目以降で料金が異なる場合は、「初回○○円、2回目以降○○円」など、その違いを明確に表示する。
・サブスクリプション…無償契約から有償契約へと自動で移行するような場合には、移行時期と支払うことになる金額を表示
無期限の場合には「1年間」など一定期間を区切った分量を目安として表示することが好ましいです。
■3、支払いの時期・方法
銀行振り込みやクレジットカード決済、代金引換などのほか、金融機関・コンビニ等での手続きといった「支払い方法」を明示。
また、前払いなのか後払いなのか、いつまでに支払いを済ませる必要があるのかといった具体的な支払い時期も明示する必要があります。
・定期購入契約…各回の代金の支払い時期を表示
■4、引き渡し・提供時期
引き渡し時期は商品の「配送」に左右されるため、商品の発送日やその見込み、または配送日時を指定している場合にはその日時を示す必要があります。
・定期購入契約…各回の商品の引き渡し時期を表示
■5、申し込みの期間がある場合、その旨と内容
季節商品や期間限定品など、商品の申し込み期間が設定されている場合(一定期間を経過すると商品を購入できなくなる場合)には、申し込みの期間がある旨とその具体的な期間を明示。
この際、「今だけ」のような曖昧な表現は×。
なお、個数限定販売のように期間を明確に区切っていない場合や、ポイント還元・割引・送料無料などのサービスを期間限定で提供するような場合は対象外となります。
一方、「タイムセール」と表記しているのに期間が過ぎても同じ価格で販売していれば「不当表示」となるおそれがあるので注意が必要です。
■6、申し込みの撤回、解除に関する事項
撤回や解除のための条件、方法、効果などを表示。
・定期購入契約…解約の申し出に期限がある場合はその期限を、また解約時に違約金その他の不利益が生じる契約の場合はその旨と内容を表示
なお、消費者が想定しないような解約方法を設けている場合、リンク先に詳細等を掲載するのではなく、最終確認画面において明確に表示することが必要となります。
※ただし、解約方法に制約や条件があることをECサイトの最終確認画面に表示したとしても、その内容が消費者の権利を不当に制限するような条項である場合には、消費者契約法などによって無効となることがあります。
また、電話で解約を受け付ける場合は、必ずつながる電話番号を掲載しておかなければなりません。

(2) 消費者を誤認させる表示の禁止
改正特定商取引法では、有償契約の申し込みであることが分かりにくく、消費者が誤認するような表示(わかりにくいボタン名等)を禁止してます。
また、改正法に違反しているかどうかは表示内容そのものだけはなく、表示の位置や形式、大きさ、色調など、表示内容全体から消費者が受ける印象等によって総合的に判断されることにも注意が必要です。
その他、定期購入契約や解約に条件があるにも関わらず、最終確認画面に「お試し」や「トライアル」「いつでも解約可能」といった文言を強調して表示することも消費者の誤認につながる可能性があるため×。
(3) 契約の撤回・解除を妨げる不実の告知の禁止
「不実の告知」とは、事実と異なる内容を伝えることを指します。
消費者が申込みの撤回や定期購入の解約を申し出た際に、それを妨げる目的で事実と異なる説明を行うこと(不実の告知)は禁止されています。
たとえば、消費者が解約を希望しているのに対し、事実に反して「定期購入契約なので残りの代金を支払わなければ解約できません」と告げるような行為は認められていません。
また、不実の告知は電話だけでなく、メールで行った場合も規制の対象となります。
(4) 「取消権」の新設
最終確認画面に必要事項が記載されていなかったり、事実と異なっていた場合、消費者は契約を取り消せるようになりました。
分量や価格などの表示で誤認があった場合も、同様に取消しが可能です。
特定商取引法に違反した場合の罰則
特定商取引法に違反した場合には、ペナルティが科されます。
たとえば、ECサイトの最終確認画面に必要な項目を表示しなかったり、事実と異なる表示を行ったりすると、法人の場合には「1億円以下の罰金」が科せられることになります(改正特商法第12条6第1項)。

改正法施行後の現状と今後の見通し
法改正後もトラブルは依然として報告されています。
国民生活センターは「注文前の最終確認画面をスクリーンショットで保存しておくように」と消費者へ呼びかけています。
事業者側は以下の点を必ず確認しましょう。
・ 今回の改正で定められた6項目が適切に表示されているか
・ 有償契約の申し込みとなることがわかりやすく表示されているか
・ 表示事項の文字のサイズや配置、色などが消費者にわかりやすいか
さらに2022年4月には個人情報保護法も改正され、6月には特商法改正と、EC事業者は対応に追われています。
加えて、消費者庁は「ステルスマーケティング規制」の検討にも着手しており、SNS発信への規制強化も見込まれます。
市場の拡大とともに、規制も強化される流れは今後も続くでしょう。
事業者には、自社サービスを正しく表示・提供し、消費者からの信頼を守る姿勢が求められます。

【参考】
消費者庁「令和3年特定商取引法・預託法等改正に係る令和4年6月1日施行に向けた事業者説明会」
消費者庁 事業者向けチラシ「貴社カートシステムでの改正法への対応について」
消費者庁「令和3年特定商取引法・預託法等改正に係る令和4年6月1日施行に向けた事業者説明会」
消費者庁「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」
※こちらの記事は、消費者庁が公表したガイドラインや説明会資料等をもとに作成しています。
掲載内容には細心の注意を払っていますが、改正法に対応する際は、必ず消費者庁のガイドライン等をご確認ください。