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駅ポスターや屋外看板、テレビCM、新聞・雑誌の見出し――ふと視界に入った一行に、思わず立ち止まった経験はありませんか。
ここでは、多くの働く女性の心をギュッと掴んだ名コピーを5本ピックアップして紹介します。

この国は、女性にとって発展途上国だ。―ポーラ
化粧品メーカーのポーラが、ビューティーディレクター(美容部員)募集のテレビCMで放った一言。
CMはこの挑発的なナレーションから始まり、コピー機の前でうつむく女性、会議後に片づけを担う女性などのカットで、日本社会に残るジェンダーギャップを次々に可視化していきます。
ラストは、社会の不条理に“個”として向き合う意思を力強く示して締めくくり。
演出を手がけたのはクリエイティブディレクター・原野守弘氏(2016)。ドコモ「森の木琴」でカンヌ金賞を受賞したことでも知られています。原野氏は「ジェンダー・イクオリティ」の視点で本作を構築。
実際、ポーラでは女性役員の登用が進み、現場の多くも女性が活躍。2015年には経産省の「ダイバーシティ経営企業100選」にも選定されるなど、組織として多様性を推進しています。
つまり、このCMとは180度異なる、ジェンダー差別のない職場環境を実現しているからこそ発信できるメッセージだと言えます。
賛否を呼びがちなテーマに真正面から向き合った姿勢が共感を集め、採用とブランディングの両面で好影響を生みました。次も、同じ観点から生まれた話題作です。
日本は、義理チョコをやめよう。―GODIVA
2018年2月1日、日本経済新聞に掲載されたGODIVAの全面広告コピー。手がけたのは前項と同じく原野守弘氏。
広告本文は、こう続きます。
バレンタインデーは嫌いだ、という女性がいます。その日が休日だと、内心ホッとするという女性がいます。なぜなら、義理チョコを誰にあげるかを考えたり、準備をしたりするのがあまりにもタイヘンだから、というのです。気を使う、お金も使う、でも自分からはやめづらい、それが毎年もどかしい、というのです
そもそもバレンタインは、純粋に気持ちを伝える日。社内の人間関係を調整する日ではない。だから男性のみなさんから、とりわけそれぞれの会社トップから、彼女たちにまずひと言、言ってあげてください。「義理チョコ、ムリしないで」と。
愛してる。好きです。本当にありがとう。そんな儀礼ではない、心からの感情だけを、これからも大切にしたい私たちです。
バレンタイン当日が休日だとホッとする女性がいる。義理チョコの配布先を考え、準備する負担が重いから――。
本来バレンタインは気持ちを伝える日であって、社内の関係調整の日ではない。だからこそ、男性、とりわけ企業トップから「義理チョコは無理しないで」と声をかけてほしい、と。
働く女性なら、多かれ少なかれ“社内義理チョコ文化”に触れたことがあるはず。
この広告は、職場の慣習に問題提起しつつ、読者層であるビジネスパーソンへ再考を促し、最後は「儀礼ではなく本音を大切に」というメッセージで締めています。
このコピーについて、原野さんは自身の著書の中で次のように語っています。
ブランドにも、それぞれ決まった「声のトーン」がある。これを専門用語で「ブランドボイス」と呼んでいるが、広告やブランディングで大事なことのひとつは、このブランドボイスを尊重することだ。
どんなに素晴らしい広告だったとしても、Appleのブランドボイスで松下電器が広告を展開したら、それを見た人は何か違和感を感じる。Nikeのブランドボイスでトヨタ自動車がブランディングを行ったら、何か自分自身を偽った広告に感じるだろう。
ー原野守弘『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』」(クロスメディア・パブリッシング、2021年)
その上で、世界的に評価されている大規模な外資ブランドのGODIVAだからこそ、このコピーが生きるのだとまとめています。
これまでに数多くの賞を受賞してきた原野さんが仕掛けた、ポーラとGODIVAとの広告。
この2つに共通しているのは、いずれも「この国の女性がなんとなく感じている生きづらさ」をテーマにしている点だ。
そうした生きづらさの中にうっすらと差す光も丁寧に描くことで、女性を応援するクリエイティブに仕上げているところが、これらのコピーの持つ最大の魅力であろう。
両者に通底するのは「この国で女性がうっすら感じている生きづらさ」を正面から描きつつ、そこに差す光も丁寧に描くことで、女性を応援するクリエイティブに仕上げているところが、これらのコピーの持つ最大の魅力だと思います。
結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです。―ゼクシィ
2017年、リクルートマーケティングパートナーズが発行するブライダル情報誌「ゼクシィ」のテレビCMで流れたこのコピーに驚いた人も多かったのではないでしょうか。
ブライダル情報誌の代名詞とも言える「ゼクシィ」が発した「結婚しなくても幸せになれる」というメッセージは、その意外性と時代を切り取った表現によって大きな話題を呼びました。
「結婚=幸せ」という固定観念を打ち破り、あらゆる生き方を肯定した点が、女性・男性を問わず多くの人の心を打ちました。
さらに、そのような時代背景の中でも「あなたと結婚したい」という女性の強い意志を重ねることで、結婚のすばらしさを伝えるという本来の目的も果たしています。
キャッチコピーは一般的に「短く、強く、シンプルに」が良いとされます。
流通性を考えても、多くは15文字以内、長くても20文字前後にまとめるのがスタンダードとされています。
それにもかかわらず、このコピーは30文字以上と長めですが、それでも一気に読ませてしまうのは、この言葉に強いインパクトと高い市場性が備わっているからだと言えるでしょう。
忙しいひとを、美しいひとへ。―パナソニックビューティ
こちらは、パナソニックビューティが展開する「美容家電」の広告コピーです。
家電量販店や駅構内などで目にしたことがある方も少なくないでしょう。
多くの人は、仕事や家事、子育て、勉強、趣味など、それぞれの「忙しさ」と向き合いながら日々を過ごしています。
だからこそ「忙しい」というワードには、それだけで見る人を強く惹きつける力があります。
決して「忙しい人は美しくない」という意味ではありませんが、女性の社会進出が進むにつれて「忙しすぎて美容にまで手が回らない」という女性は増えてきているようです。
そうした背景の中で、「時間がない、でもきれいでいたい」と願う女性の心に、このコピーは響いたのでしょう。
また、このコピーは短く整った言葉でありながら、パナソニックビューティが掲げる「時短」や「美」を的確に表現していると言えます。
ちなみに、以前のキャッチコピーは松下電工時代に制作された「きれいなおねえさんは、好きですか。」というものです。
キャッチコピーも商品も大きなヒットとなり、今も記憶に残っている方は多いでしょう。
ただし当時はもてはやされたものの、男性目線から女性の美しさを語る内容であり、今見ると時代感覚のズレを感じざるを得ません。
なお、パナソニックビューティは今年7月にコミュニケーションコンセプトを一新しました。
2010年に女性の社会進出にあわせて制作された「忙しいひとを、美しいひとへ。」から、年齢や性別を問わず親しめる「美しさは、私の中にある。」へと変更。
ロゴもピンクから白へ刷新するなど、多様性を尊重した姿勢を打ち出しています。
今後も、時代の流れにあわせて進化していく同社のキャッチコピーに期待したいところです。
去年の服が似合わなかった。わたしが前進しちゃうからだ。―ルミネ
こちらは2013年に制作された、駅ビル型ショッピングセンターを運営するルミネのコピーです。
ルミネはこのほかにも女性の心を揺さぶる優れたコピーを数多く生み出していますが、その多くに共通しているのが、一番売りたいはずの「服」のデザインや機能には触れていないという点です。
それは、見る人が本当に求めているのは「服」そのものではなく、新しい服を着ることで得られる「よりステキになった自分」「生まれ変わった自分」だからだと言えます。
つまり、お客さまが欲しいのは商品そのものではなく、その商品を手に入れることで得られる価値(ベネフィット)であるという、マーケティングの基本を押さえたすばらしいコピーなのです。
さらに、「去年の服もまだ着られるのにもったいない」という気持ちを捨てさせ、新しい服を買う理由を与えている点でも、女性の心理を的確にとらえていると言えるでしょう。
また、キャッチコピーの中に「わたし」という主人公(一人称)を登場させるのは、女性をターゲットとした商品やサービスのコピーによく用いられる手法です。
身の回りを見回してみても、「わたし」というワードを使ったコピーが多いことに気づくはずです。
たとえば、以下のようなものがあります。
・「なりたい私になっていく。」― SEIKO(2016)
・「わたしは、まいにち、生まれる。」― ポッカサッポロフード&ビバレッジ(2018)
・「うまくいけ、わたし からだ。」― 大塚製薬(2021)
「わたし」というワードを用いることで、見る人が自然と自分の姿と重ね合わせ、共感を抱きやすくなる効果があります。
もちろん「わたし」という言葉が入っていなくても、コピー全体をストーリーとして見たときに、自分ごととして捉えてもらえることが大切です。
まとめ
パナソニックビューティのコンセプトが「きれいなおねえさん」から「忙しい人」、さらに「(自分の中の)美しさ」へと変わっていったように、時代とともに「共感」の形も変化していきます。
時代の流れを正しく読み取り、自分たちの考え方や姿勢を誠実に発信すること。
そしてその想いに共感してもらい、自分たちを好きになってもらうこと。
人の心を動かすためには、この点がとても大切なのだと思います。
SNSがここまで普及した時代だからこそ、「好き」の連鎖は強く、多くの人を動かす原動力になります。
ここに挙げた5つのクリエイティブに共通していることが1つあります。
それを、ポーラやGODIVAの広告を手がけた原野さんは、前述の著書の中で次のように表現しています。
偉大なブランドは、自分のことではなく、自分が愛するものについて語るのだ。
Herマーケティング
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