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SNS全盛のいま、商品やサービス選びに「口コミ」を重視する人は非常に多くなっています。
女性マーケティングでも口コミの活用は、認知拡大やブランド価値の向上に欠かせない存在です。
一方で、広告であることを隠した宣伝=「ステルスマーケティング(ステマ)」が社会問題となり、信頼性を揺るがすケースが後を絶ちません。
こうした背景を受け、今年10月からはついに法律でステマ規制が始まります。
今回は「口コミの本来の役割」を振り返りつつ、規制開始前に企業が取り組むべき点を整理します。
心理学から見た「口コミ」の力
ネットで商品やサービスを選ぶとき、多くの人が口コミを参考にしています。
特に女性は「失敗したくない」「騙されたくない」という心理が強く働くため、客観的な情報が安心材料になるのです。
企業が「安心できます」とアピールしても、セールストークと見られがち。
そこで威力を発揮するのが「第三者からの声=口コミ」です。
口コミの心理効果には、代表的に次の3つがあります。
ウィンザー効果
当事者の発言よりも、利害関係のない第三者の言葉の方が信用されやすい現象。
例:サロン店長の売り文句より「実際に通って痩せたよ」という体験談の方が信じられる。
バンドワゴン効果
多くの人が支持していると「人気=価値がある」と認識され、行動が広がる心理。
例:大ヒット商品と聞くと自分も購入したくなる。
ハロー効果
一部の好印象が対象全体の評価を押し上げる現象。
例:好感度の高い有名人が紹介すると商品自体も魅力的に見える。

こうした効果を背景に注目されているのが「UGC(ユーザー生成コンテンツ)」。
SNSでのコメントや口コミ、レビューなど一般ユーザーが作ったコンテンツです。
しかしUGCを悪用したのが「ステルスマーケティング(ステマ)」なのです。
ステルスマーケティングの手口と問題点
ステルスマーケティングとは、消費者に広告であることを気づかせないまま宣伝を行うマーケティング手法のことです。
「ステルス」には「こっそり行う」という意味があり、「ステルスマーケティング」以外にも、敵のレーダーに探知されにくいよう設計された「ステルス戦闘機」という言葉にも使われています。
ステルスマーケティングの手法は、大きく分けて2つのパターンがあります。
1つは「不正レビューの投稿」、もう1つは「インフルエンサーや有名人を活用した宣伝」です。
不正レビューの投稿
企業が消費者を装って好意的なレビューを書き込み、フェイク情報で購入を誘導する。
インフルエンサーや有名人を使った宣伝
SNSなどで影響力のある人物に依頼し、宣伝であることを伏せた投稿をさせる。

「ステマ」と聞くと、2012年のペニーオークション(ペニオク)詐欺事件を思い出す方も少なくないでしょう。
この事件では、運営者が詐欺罪などで有罪判決を受けたほか、複数のタレントや芸能人によるステルスマーケティング(ステマ)が行われていたことが判明し、社会問題にまで発展しました。
ステマを行ったタレントたちは、その後大きな批判を浴びることになりました。
そのほかにも、口コミ評価代行業者による順位操作が発覚した「食べログ事件」や、映画の感想を描いた7本のマンガがほぼ同時刻にTwitterに投稿された「アナと雪の女王2ステマ騒動」など、ステマに関するトラブルは後を絶ちません。
こうした状況を受け、消費者庁の有識者検討会は、ステマを景品表示法における「不当表示」に追加し、違反があった場合には広告主を処分の対象とする方針を固めました。
10月から規制がスタートします!企業が押さえておくべき点をご紹介します
2023年3月28日、消費者庁により、いわゆるステルスマーケティングが景品表示法で規制されることになりました。
その対象となるのが「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」です(令和5年内閣府告示第19号)。
ここでは、「事業者が自己の供給する商品または役務の取引について行う表示であるにもかかわらず、それを明確に示さないために、一般消費者が事業者による表示であることを判別できないもの」を、景品表示法における「不当な表示」として禁止しています。
簡単に言えば、「広告である場合には、消費者に広告だと分かるように明示しなければならない」ということです。
今回の規制におけるポイントは大きく2つあります。
1つは「どのような広告が規制の対象となるのか」、もう1つは「広告である旨をどのように表示するのか」という点です。
規制の対象
今回のステマ規制において、消費者庁は「事業者が表示内容の決定に関与したとされるもの」を広告とみなすとしています。
例えば、
・事業者が第三者になりすまして自社商品に関する好意的な投稿をした場合
・インフルエンサーに自社商品を提供し、SNSで「オススメ!」と投稿するよう依頼した場合
・第三者に報酬を渡して評価の高い口コミを投稿してもらった場合
などが広告にあたります。
また、第三者に依頼して口コミサイトなどに競合他社に関するネガティブな投稿を行った場合も、広告に該当するため注意が必要です。
このような行為は、今回のステマ規制の対象となるだけでなく、不正競争防止法違反などに問われる可能性もあるため、絶対に避けるべきです。
一方で、
・投稿した人が自らの意思・判断でレビューを書いた場合
は、広告に該当しません。
では、「ECサイトに出店する広告主が、自社商品の購入者に対して、レビュー投稿への謝礼として次回割引クーポンなどを配布する場合」はどうでしょうか。
このケースでは、投稿内容に関するやり取りが一切なく、投稿するかどうかを含めて購入者が自主的な意思でレビューを書ける状態であれば、広告には該当しないとされています。
一方で、「星を5つ付けてくれた投稿者には特別な謝礼を渡す」といった条件を付けた場合には、広告とみなされ、規制の対象となる可能性が高いです。
ただし、この線引きは非常に難しい部分であり、「事業者が表示内容の決定に関与したとされるもの(=広告)」なのか、それとも「第三者の自主的な意思による表示」なのかについては、最終的に消費者庁が客観的かつ総合的に判断することになります。
広告である旨の表示方法
上記の通り、広告主が第三者にSNSやブログ、口コミサイトなどで自社商品やサービスの宣伝を依頼するなど、「事業者が表示内容の決定に関与したとされるもの」は、広告であることを明示しなければなりません。
その際には、「広告」「PR」「プロモーション」「宣伝」「タイアップ」といった文言の表示、または「◎◎社から商品の提供を受けて投稿しています」といった文章を掲載することが必要です。
なお、「広告」である旨は、消費者にとってわかりやすく表示しなければなりません。
広告である表示を大量のハッシュタグの中に埋もれさせて見えにくくしたり、極端に小さな文字で記載したりすることは「禁止行為」にあたるため、十分に注意する必要があります。
罰則について
ステルスマーケティングは、消費者をだます行為であり、商品やサービスにおける健全な競争を阻害するものです。
景品表示法に違反していると判断された場合には、再発防止のための措置命令が出され、それに従わなければ2年以下の懲役または300万円以下(法人の場合は3億円以下)の罰金、あるいはその両方が科される可能性があります。
なお、今回のステマ規制の対象は、商品やサービスを提供している事業者(広告主)のみであり、現段階では投稿者であるインフルエンサーは規制対象となっていません。
しかし、海外の事例や実際の運用状況を踏まえると、今後は規制の対象範囲がインフルエンサーや仲介業者などにまで拡大される可能性も否定できない状況です。

まとめ
10月からスタートする「ステマ規制」において企業が徹底すべきは以下の2点です。
・事業者が表示内容の決定に関わった場合は、「広告」「PR」など、広告である旨を記載する
・広告である旨は、はっきりわかりやすく明示する
現在、「口コミ」は消費者が商品やサービスを選択する際の重要な判断材料となっている。
これらを不正にコントロールしていることが発覚した場合、消費者からの信頼を失うだけでなく、今後は法の裁きも受けることになる。
口コミは今や消費者にとって重要な判断基準。
虚偽の運用が発覚すれば、信頼を失うだけでなく法的制裁を受けるリスクもあります。
正しいルールに基づいた運用を行い、フェイクではなく「本当のファン」を育てることこそ、企業にとって長期的な資産になるのです。
【参考】
消費者庁「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の指定及び「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」の公表について」
Herマーケティング
https://her-marketing.jp/
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